ヨム・ドンホさんは、11月の情報バザールに出席された折のスピーチで「千年つづく企業が世界に9つありますが、そのうち7つが日本の企業です。ご存知ですか?」と問いかけられました。元会計検査官の森さんがすかさず、「金剛組」と答えて1つは大正解でした。
金剛組は578年に、四天王寺建立のため聖徳太子によって百済から招かれた宮大工の一人である金剛重光が創業して以来、現在も100人以上の宮大工を抱える世界最古の企業です。では、あとの6つは? それは、あえて謎にしたまま、講演でお話しいただくことを快諾していただきました。長寿企業大国ニッポンの残りの正解が楽しみですね。
ヨム・ドンホさんは韓国光州出身。NHK国際放送局の韓国語アナウンサーであると同時に、経済学者として法政大学大原社会問題研究所および比較経済研究所の兼任研究員を務めていらっしゃいます。また、韓国の全国放送網SBSの東京リポーターを歴任後、現在はKBSやMBCの経済・時事番組コメンテーター、月刊朝鮮の「Top Class」に2006年以来連載を続けているのをはじめ、毎日経済新聞、毎経Economyに経済関連記事を執筆するなど韓国マスメディアで活躍されています。「Top Class」で紹介した日本の企業家(職人精神)のシリーズは大好評で、このうち9社に絞って単行本化もされました。この9社の経営者に共通する点は、「経営の常識に反したことをやっている人」であり、「近代以前の日本の経営手法・商道徳・事業哲学」だと、ヨムさんは指摘されています。
韓国銀行が発表した『日本企業の長寿要因および示唆点』(08年5月)でも、世界で創業200年以上の企業は5586社で、このうち半分以上の3146社が日本に集中しているのに対して、韓国には1社もなく、100年以上の企業も2社にとどまると報告しています。そして、日本経済が1980年代の円高と90年代の長期不況から脱したのは、素材・部品分野で先端技術を保有する長寿企業の役割が大きかったとして、「本業重視」「信頼経営」「職人精神」「血縁を越えた後継者選び」「保守的な企業運用」を挙げています。
まさしく長寿企業に共通するのは、利益には直接結びつかなくても「ここだけは譲れない」という意思と理念を受け継いでいること、「血族に固執せず、よそから優れた人材を取り入れる」ことであり、伝統芸術における宗家の継続にも通じているようでもあります。
比較文化と比較経済の面から日韓を鋭く見つめ続けるヨムさんのお話からは、原点を振り返り未来への展望を図る「温故知新」の鍵がいくつも読み取れそうですし、加えて「韓国企業の世界戦略と日本企業との関係」やSamsungなど「韓国企業の企業文化の変化」についても最新トレンドを教示していただけることでしょう。(加藤和郎)
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