新春は初参りなど、忘れかけていた日本の心をよみがえらせてくれるよい機会です。
そこで新年初のI-Mediaは、日本独特の音である「鼓」に注目することにしました。
日本音楽には自由リズムとしかいいようのない"引っ張り"と"詰め"があり、西洋音楽の理屈では解釈できないものがあります。それは結局、「間」の問題で あり、その「間」が日本独特の「拍子」を作り出しているからでしょう。民族音楽研究の故・小泉文夫さんは、『日本伝統音楽の研究』の中で次のように書いて います。
◆日本音楽の拍子では西洋のような強弱の拍ではなく、表の拍、裏の拍というふうに捉えるところがあって、 それを「表間」「裏間」とよび、この2拍子でひとくくりしている。これが一組の「間拍子」なのだ。民謡の「追分」や「馬子唄」では、この間拍子をきっと馬 の進み方や旅の急ぎ方によって、さらに自在にしているということなのではないだろうか。◆
「鼓」は奈良時代に大陸から伝わってきましたが、室町時代以降、能が武家の教養に欠かせないものになると、形も音色も洗 練されて日本独自の楽器として発達しました。通常、小鼓と大鼓(おおかわ)が一組となって演奏され、双方が息を合わせて独特の間合いをとりながら、音色の 違いを互いに生かしあいます。では、大鼓と小鼓はどこが違うのでしょうか。大鼓は演奏前に炭火に当てて革を乾燥させます。そうすることで、ハリのある力強 い響きを発します。小鼓はその逆で、唇でぬらした和紙を革の裏側に貼付けたり、革に息を吹きかけて、湿り気を持たせます。そうすることで音色を柔らかく し、深みのある余韻が生まれるからです。鼓はどちらも、革面を打つと同時に、革を張っている調緒(しらべお)という麻の紐を調整することで音色を変化させ ますが、この奏法は日本独特のものであり、鼓の構造や形そのものが"日本の美"を象徴しているといえます。
*講師紹介*
・小鼓の福原鶴花さんは、日本舞踊をしていた母の影響で邦楽、なかでもお囃子の世界に興味を持ち、福原鶴祐師に師事。平成3年に名を許され、現在は長野県 や富山県を中心に演奏活動をしながら、邦楽の普及に努めておられます。皆さんにも直接手にして音を楽しんでいただこうと、中野市(長野)の自宅から鼓をた くさん運んで来てくださるそうです。
・大鼓の望月太左如さん(John Lytton)はミズリー州出身。プリンストン大学を卒業後、昭和53年に来日。四畳半にピアノが入らず始めたのが三味線ですが、さらにコンパクトな楽器 があることを知り鼓の世界に。64年に10代目望月太左衛門に名を許され、舞踊会の伴奏や演奏会などに出演。お囃子や歌舞伎関係の音楽の研究グループであ る『一如乃会』およびNGO『Hayashi Institute of Japan』の理事を務めておられます。
そして、ナビゲートしていただくのは、東京大学と国際基督教大学で三味線と長唄を教えていらっしゃるI-Mediaにはなくてはならぬひと、稀音家六綾さんです。
「衣擦れの 袖の彩けし 初つづみ」 ゆかしき音に酔う初春の宵ですよ。(加藤和郎) |